
不安定な姿勢
「しっかり、掴まっててください」
「ええ……」
両手に力を入れてしっかり彼の首に抱きつくと、床についていた足を持ち上げられる。
両足を彼の胴に巻きつけて落とされないようにしがみついた。
知らない男に抱かれているという事実だけでも、私には強烈な体験で、そのことを意識すればするほど、快感は高まっていく。
逞しい男の身体にしがみつく、初めての体位も私を興奮させた。
あと、十分くらいで、誰かがこの部屋にやってくるはず。
限られた時間の中で、自分の快感だけをむさぼるような行為が続く。
再び背中に冷たい壁を感じると同時に、男の唇が私の唇を塞いだ。
下半身の結合した場所から生じる強い快感の波が全身に行き渡り、私は男の肩に爪を立てて耐えた。
薄れそうになる意識をようやく保っている私の視界に映るのは、ときおり明滅するモニター。
その脇に、小さな電車の模型がいくつも置かれているのに初めて気づく。
やっぱり、後藤良平は、あのときの電車の痴漢だったんだ。
電車の模型がそこにあるからといって、それがなんの証拠になるわけでもないのに、こんなふうに考えるなんて。
それは、この男が、あの痴漢であってほしいと思っているからだ。
壁に押しつけられた背中が痛かったけれど、それ以上に直接的な刺激を与えられた私の内部が、私の意思とは無関係に収縮を始めた。
急激に、強い刺激を受けた私の内部が蠕動運動を始める。
後藤良平の太い首にしがみついた私の耳たぶに熱い息がかかる。
「あぁ……っ……いい……」
力強く打ち込まれる、男の熱い楔が、私の意識を遠ざける。
痛いくらいに擦り合された丘が燃えるようだ。
立ったままで壁に背中を押し付けられて、脚を抱えられた私は、再びキスで唇を塞がれると、一気にのぼりつめそうになった。
口内を掻き回していた舌が去って、唇も離れる。
「妙子さん、中で、いいですか」
「ああっ……おねがい……もう……」
丁寧な口調とは反対に、彼の動きが激しさを増した。
立て続けに奥まで突かれて、意識を手放しそうになってしまう。
こんなに不安定な姿勢じゃなかったら、とっくに、わけがわからなくなっているに違いないと思った。