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女として生きた証

その、芳しい匂いに、うっとりして目を閉じたわたくしは、初めて知った女の悦びに浸っていたのでございます。

 

後悔ですか?

 

そんなもの、一度もしたことはありませんよ。

 

妻として生きるか、母として生きるか。

 

それとも、女として生きるか。

 

選ぶ余地など、初めからないとは思いませんか。

 

女は、初めから、女として生まれて、女として死んでゆくものです。

 

あなたも女性なら、わたくしの気持ちがおわかりになると思いますけれど?

 

あの日から、生涯、ただの一度もこの屋敷の外に出ることもなく、ずっとこうしております。

 

ええ、この座敷からも、めったに出ることはありませんの。

 

障子を開けて中庭を眺めれば、季節の移り変わりがわかります。

 

以前のように頻繁ではなくなりましたが、あの方も来てくださいます。

 

ときどきは、縛ってもらうこともあります。

 

ええ、そうなんです。

 

いつの頃からか、部屋から鏡が片付けられてしまったんですよ。

 

でも、そんなことちっとも気にしていません。

 

カレンダーや、時計ですって?

 

そんなものに、なんの値打ちがあるって言うんです。

 

殿方に、愛でられることこそが、女として生きた証だとは思いませんか。

 

ところで、貴女。

 

ちょっと、いいアルバイトがあるのですけど、いかが?

 

興味がおありなら、一度、行ってみてくださいな。

 

ほら、最初にお話したホテル。

 

あそこのラウンジで、明日の午後三時に、待ってみませんか。

 

年齢なんて、夫や子供がいることなんて、関係ありませんよ。

 

女は、生涯、女なんですもの、ね。