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驚いた顔

「うっ……」

 

小さくうめいて彼が身体の動きを止めると、私の中にある彼の怒張がビクリとした。

 

次の瞬間、自分の奥に熱い液体が注がれるのを感じた私は、強い絶頂感に耐え切れず叫んでいた。

 

「あぁ……あっ、あぁーっ!」

 

まだ完全には萎えていないように思えるペニスが私の中から抜かれたとき、追いかけるように自分の内部が蠢いたのを感じて急に恥ずかしくなってしまった。

 

彼が手際良く後始末をして服を直すのを見て、慌てて身づくろいをする。

 

その部屋は、ほんの五分ばかり前まで、私と後藤良平が激しく抱き合っていた場所。

 

パソコンの横に電車の模型が置かれている部屋。

 

そういえば、彼はどこにいったのかしら。

 

探すまでもなく、コーヒーカップをひとつ持った彼が仕事部屋に入っていくのが見えた。

 

私は自分のバッグを探して肩に掛けると、靴を履くために玄関に向かった。

 

「妙子さん、コーヒー飲んで行きませんか?」

 

「いえ、もう、失礼します」

 

背中に視線を感じながら靴を履き終えて振り向く。

 

いったいどんな表情を浮かべているんだろうと思った後藤良平は、何事もなかったような涼しい顔をしていた。

 

「いつでも電話してください。

 

ここにかければ私のスケジュールがわかります」

 

差し出された名刺は、見慣れたものだった。

 

たった今だって、私のバッグの中に入っている。

 

数ヶ月前、電車の中でヒップを撫で回されたときに、痴漢が私の服のポケットに入れた名刺、あれとそっくり同じだ。

 

確かめるべきだろうか。

 

あのときの痴漢は、あなたですか、後藤良平さん。

 

そう質問するなら今だった。

 

「あの……電車にはよく乗りますか?」

 

「電車、ですか?」

 

バカなことを聞いてしまったと思った。

 

もう、返事なんかどうでもいいから早くここから去りたい。

 

「もう、何年になるかなあ、車で移動するのが習慣になってしまって、最後に電車に乗ったのが何年前なのか、すっかり忘れてしまいましたよ」

 

私がよっぽど、驚いた顔をしたのだろうか。

 

彼が、不審そうに私の顔を見つめてから、感じのいい笑顔を作る。

 

「妙子さんは、これから電車に乗るんですね」

 

「ええ……」

 

ドアを閉めて、エレベーターで一階に降りて、近くの駅まで歩く。

 

自動改札にカードを通してホームで電車を待つあいだにも、私はずっと考え続けていた。