
生まれて初めての恋
わたくしの秘部を穿っているのは水牛の角ではありませんでした。
夢にまでみた、あの方が……。
そうなのです、あの方が御自身をわたくしの中へ。
ああ、なんということでしょう。
そのときのわたくしの驚きと悦びは、いったいどのように表現したらよいのかわかりません。
「ああっ…なんという……ことでしょう」
「気づいてしまわれたのですね」
「どうか、お願いです……そのまま、お続けになって……」
「嫌だと、おっしゃられても、やめるつもりなどありませんよ」
ずっと、叶わないと思ってあきらめていたのです。
まるで、夢のようでした。
夫との性生活で、これほど歓喜したことがあったでしょうか。
両親が選んでくれた夫ですもの、なにも不足があったわけではありません。
けれども、それで本当の女の幸せが得られたと言えるのでしょうか。
全身の匂いを愉しみ、鼻と舌で味わい尽くされる悦びを知ってしまったのです。
どうして、夫のもとへ戻ることができるでしょう。
心の底から愛する男性に貫かれたまま、わたくしは何度も歓喜の極みに達しました。
約束の時間は、とうに過ぎて、障子の外は夕焼けから薄闇に変わりつつありました。
「今なら、まだ、ご主人とお子さんのいる家に帰ることができますよ」
「いいえ」
「これ以上、ここに留まれば、かわいいお子さんにも二度と会えないことになる。
わかっていますか?」
「承知しております」
「本当に、後悔しませんね」
「はい、必ず」
背後からひとつになったままのわたくしたちの姿が、鏡にちらりと映るのが見えました。
ああ、なんと美しいのでしょう。
わたくしが、生まれて初めての恋をした、あの方は、どこの誰にもたとえようがないほどに美しい殿方でした。